Lisa Pascal Workshop 3.0と3枚のフロッピー
Lisa Pascal Workshop 3.0(最終バージョンは3.9)は,LisaおよびMacintoshのプログラム開発統合環境です。こちらも豪華なパッケージになっています。
ソフトウェアは3.5インチ片面倍密(1DD)400KBのフロッピー9枚組で供給されました。Lisa Office SystemとPascal Workshopは,パーティションを分割してひとつのハードディスクにインストールすることができました。外付けの容量5MBのProFileにLisa Office SystemとPascal Workshopを同居させるのは現実的ではなかったため,Bellwood-LabではPascal Workshop専用のProFileを1台と,Lisaの拡張スロットに装着するProFile接続用2ポートパラレルカードを増設しました。当時の購入価格は35万円くらいでした。
マニュアルはバインダー3冊で,Lisa Language,Lisa Systems Software,Lisa Workshop User's Guideで構成されています。Lisa Office Systemのマニュアルに比べると印刷品質がよろしくなく,LisaWriteで原稿を作成しImageWriterで出力したものを版下にしたように見えます。
Pascal WorkshopはLisa Office Systemとは異なり,ほとんどコマンドインターフェースとなっています。
唯一エディタだけはLisaWriteのようなマルチウィンドウになっており,GUIで操作することができます。当時のパーソナルコンピュータのスクリーンエディタに比べれば,先進的なものでした。
サンプルプログラムのソースファイルをコンパイルして実行してみます。まずはQuickDrawの描画サンプルです。QuickDrawはMacintoshよりも先にLisa OSに搭載されていました。
こちらは3Dのボックスをランダムに描画させるサンプルプログラムです。描画速度は当時のパーソナルコンピュータと比べてそこそこ高速でした。
Pascal Workshopに含まれているInstalltoolを使って,Lisa Office System上で動作するアプリケーションとしてポーティングできます。
Lisa Office System上にポーティングされたツールはこのように見えます。(このプログラムは実行することも可能ですが,メニューバーもウインドウも定義していないので,実行終了後にLisa Office Systemの再起動が必要になります。きちんと動かすにためにはもっとLisa Toolkitを勉強する必要があります。)Pascal Workshopは,Lisa Office System上で動作する本格的なアプリケーションを作成したいと思って購入したのですが,付属のマニュアルだけでは情報が少なすぎて挫折しました。
ちょうどInside Macintosh(英語版)が刊行された頃でしたので,プログラミングのための情報が多いMacintosh用アプリケーションの作成に軌道修正することにしました。こちらもいろいろ試行錯誤を繰り返したのですが,結論としてわかったことは「 Macintoshのアプリケーションを開発するために必要なPascalのインターフェースファイルやオブジェクトファイルが,Pascal Workshopには含まれていない」ということでした。困ってしまったので購入元のキヤノン販売に問い合わせたところ,しばらく経って回答がありました。
「LisaでMacintoshのプログラムを開発するためには,開発者としての契約が必要です。契約には費用が発生します」
契約に係る費用がいくらくらいなのかは明示されませんでしたが,契約は個人ではダメで,法人である必要があると言われた記憶が残っています。Pascal Workshopのパッケージには「Complete Macintosh application development environment」と書いてあって,これさえあればMacintoshのアプリケーション開発ができるように思わせるし,それよりもMacintoshのアプリケーションを作ることを目的にLisaに200万円近い投資をしてしまったので,こちらも簡単に引き下がることができません。
「特別に」ということでApple Japanからご提供いただいたのがSupplement Diskという3枚のフロッピーとPutting Together a Macintosh Applicationというドキュメントのコピーです。
3枚のフロッピーに,Macintoshアプリケーションの開発に必要なファイルが収められていました。
1枚目のファイルリストです。
2枚目です。
3枚目です。
後にわかったことですが,「開発者としての契約」というのがAPDA(Apple Programmers and Developers Association)に加入することで,Supplement DiskはAPDAから購入するものでした。APDAへの加入は米国Apple社に直接の申込みとなっていて,個人での申込みは受け付けていませんでした。現在のようにクレジットカード決済のような便利な手段がなく,銀行に出向いて海外送金小切手を作ってもらっていました。情報を入手するためにはとにかく労力を要した時代だったのです。